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福岡高等裁判所那覇支部 平成9年(ネ)49号 判決

控訴人(被告) 大和ファイナンス株式会社

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 比嘉正幸

被控訴人(原告) 沖縄国際ボウリング株式会社

右代表者代表取締役 B

右訴訟代理人弁護士 与世田兼稔

右同 阿波連光

右同 宮國英男

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人の請求を棄却する。

三  控訴費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

主文同旨

二  控訴の趣旨に対する答弁

1  本件控訴を棄却する。

2  訴訟費用は控訴人の負担とする。

第二当事者の主張

当事者の主張は、次のとおり加除、訂正するほか、原判決の事実「第二 当事者の主張」のとおりであるから、これをここに引用する。

1  原判決二枚目裏一行目の「本件土地建物には」の次に「控訴人を抵当権者とする」を加える。

2  同三枚目裏九行目の「了した」の次に「(以下、右二件の消費貸借のうち、前者を「本件第一の借入れ」ないし「本件第一の貸付け」と、後者を「本件第二の借入れ」ないし「本件第二の貸付け」と、右二件を総称して「本件借入れ」ないし「本件貸付け」とそれぞれいう。また、右二件の抵当権設定のうち、前者を「本件第一の抵当権設定」ないし「本件第一の抵当権設定契約」と、後者を「本件第二の抵当権設定」ないし「本件第二の抵当権設定契約」と、右二件を総称して「本件抵当権設定」ないし「本件抵当権設定契約」とそれぞれいう。)」を加える。

3  同四枚目表六行目の「(主位的再抗弁)」を削除する。

4  同五枚目裏一行目の「重過失」を「有過失」と訂正する。

5  同七行目の「本件抵当権設定契約」を「本件第一の抵当権設定契約」と訂正する。

6  同九行目ないし一〇行目の「抵当権設定契約」を「本件第二の抵当権設定契約」と訂正する。

7  同六枚目裏一行目の「(予備的再抗弁)」を削除する。

8  同八行目から同七枚目表六行目までを削除する。

9  同七枚目表七行目の「取締役」を「取締役会」と訂正する。

10  同裏三行目の「原告の」を「契約に立ち会った被控訴人の総務部長であった」と訂正する。

11  同八行目の「重過失」を「有過失」と訂正する。

12  同八枚目表六行目の「可能な金額」を「不可能な金額」と訂正する。

13  同九枚目裏二行目の「重大な」を削除する。

14  同一〇枚目表六行目ないし七行目の「本件各契約を締結する」を「本件抵当権設定をする」に訂正する。

15  同一一枚目表一行目から同六行目末尾までを次のとおり訂正する。

「4(一) 再抗弁2(一)の事実のうち、本件借入れが商法二六〇条二項二号に定める多額の借財にあたることは認め、本件借入れにつき被控訴人の取締役会の決議の存在しないことは知らない。」

16  同一三枚目裏一〇行目の「抗弁1の事実」を「再々抗弁1の事実」と訂正する。

17  同一六枚目裏六行目の「評価することはできない。」の前に「と」を加える。

第三証拠

原審及び当審における書証目録及び証人等目録記載のとおりである。

理由

一  請求原因の各事実及び抗弁の各事実はいずれも当事者間に争いがない。

二  再抗弁1(一)及び同2(一)について

1  再抗弁1(一)(1)及び同2(一)(1)(取締役会決議の不存在等)について

再抗弁1(一)(1)及び同2(一)(1)の各事実のうち、本件借入れ(本件第一及び第二の各借入れ)が商法二六〇条二項二号の「多額ノ借財」にあたること及び本件抵当権設定(本件第一及び第二の各抵当権設定)が同項一号の「重要ナル財産ノ処分」にあたることについては、当事者間に争いがない。

そして、甲第一六号証、証人C、同D、同E及び同Fの各証言によれば、本件借入れ及び本件抵当権設定については、いずれも被控訴人の取締役会の決議がされていないことが認められる。

2  再抗弁1(一)(2)及び同2(一)(2)(控訴人の悪意又は過失)について

(一)  株式会社において、商法二六〇条二項所定の事由に該当するため、取締役会の決議を経てすることを要する取引行為を、右決議を経ないでした場合であっても、右取引行為は、相手方において右決議を経ていないことを知り、又は知ることができたときでない限り、有効であると解される。

そこで、本件において、控訴人が、本件借入れ及び本件抵当権設定につき、被控訴人の取締役会の決議がなされていないことを知り、又は知ることができたかどうかについて検討するに、〈証拠省略〉、被控訴人代表者の本人尋問の結果(なお、右代表者は証人として尋問されているが、責問権の喪失により当事者尋問の結果に転換されたものと解される。)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の各事実が認められる。

(1) 株式会社國場組(以下「國場組」という。)は、Dの父であるG(以下「G」という。)が、同人の弟であるH、I、Bらとともに創業して発展させた会社(設立当時は合資会社)で、本件借入れ当時、沖縄県内における最大手のゼネコンであった。同社には多数の関連会社があり、國和会と称するグループを構成していたが(本件借入れ当時は、約三一社)、國和会に属する企業の中には、國場組がその株式を保有していないものもあり、また、國場組の役員が設立した会社がその後に國和会に入ることもあって、その所属基準は必ずしも明確となっていなかった。

また、國場組は、Gが長年にわたり代表取締役をつとめ、Dを含めた親族らがその取締役に就くといった同族会社的色彩の強い会社であって、Gの長男であるDは、國場組の株式の約一三パーセントを保有し、いったんはその専務取締役にもなったが、自らが取り組んだ事業に失敗し、昭和六三年八月当時は、平取締役の地位にあり、当時の(共同)代表取締役はGのほか、Dの弟のJであった。

その後、Gが同月二日に死亡したため、同年九月二七日、Dが國場組の代表取締役社長に就任するに至ったが、同時に、Iが代表取締役会長に、JとHの子であるKが代表取締役副社長となって、これを補佐することとなった。

(2) 被控訴人は、國場組の関連会社として設立された会社であり、國和会に所属し、当初からGが代表取締役会長に、Dが代表取締役社長にそれぞれ就き、本件借入れ当時、発行済株式総数の一九・六パーセント(第一位)を國場組が、五・三パーセント(第二位)をDが保有していた。

同社の目的は、定款上、ボウリング場の経営、観光事業、不動産の売買又は管理、宅地の造成並びに分譲、これらに付帯する一切の業務と定められていたが、実際には、ボウリング場の経営を行っていただけであった。

本件借入れ当時、同社の営業、技術部門の責任者は取締役支配人のFで、総務(経理、会計、庶務)部門の責任者は総務部長のCであり、F以外の取締役には、H、Bらがいたが、いずれもいわゆる社外重役であり、同社の営業等に直接関わることはなかった。

(3) 琉球企画は、昭和六三年八月、ゴルフ場やレジャー施設の経営に関する業務等を目的として、Dが実質的にすべての出資をして設立した会社であり、同人が代表取締役社長に就任し、被控訴人の総務部長であるCらが登記簿上取締役として登記された。その後、L(以下「L」という。)が同年八月に、M1ことM(以下「M1」という。)が平成元年二月に、それぞれ取締役に就任した。また、Dは、前述のとおり、國場組の代表取締役に就任したことから、昭和六三年一〇月、琉球企画においては代表取締役会長となり、Nが同社の代表取締役社長に就任した。

同社は、國和会には属しておらず、Dが代表取締役であるということ以外には、國場組及び被控訴人と全く関係がない会社であった。

(4) 被控訴人は、本件土地建物において、ボーリング場の営業を行っていたところ、そのうち原判決添付の別紙物件目録記載一及び四の各土地(以下、右各土地を「本件一土地」及び「本件四土地」という。)並びに五の建物(以下「本件建物」という。)は、被控訴人が昭和四〇年代から自社所有の土地建物としてこれを保有していたものであり、また、同目録記載二及び三の各土地(以下、右各土地を「本件二土地」及び「本件三土地」という。)は、被控訴人が國場組から賃借していたものを、昭和六三年三月、明治生命保険相互会社から一〇億円を借り入れたうえ、國場組から買い取ったものであった。

本件一土地及び四土地は、右のとおり被控訴人が所有しており、被控訴人自らが債務者となっている抵当権ないし根抵当権がかなり設定されていたが、なお担保余力があり、本件借入れ前にも、國場組ないしその関連会社のため、昭和五一年一一月、昭和五二年三月、同年一〇月、昭和五七年三月及び昭和六一年一二月に株式会社沖縄特電(登記簿に表示された所在地は國場組の所在地と同一)を債務者とする抵当権ないし根抵当権が、昭和五五年七月にキャムビィー商事株式会社(登記簿に表示された所在地は國場組の所在地と同一)を債務者とする根抵当権が、昭和六二年七月に國場組を債務者とする根抵当権が、それぞれ設定登記された(なお、株式会社沖縄特電を債務者とする昭和五二年三月、昭和五七年三月及び昭和六一年一二月の各根抵当権設定登記は、本件借入れ当時も抹消されていなかった。)。

なお、國場組を債務者とする右根抵当権は極度額を七億円とするもので、國場組から被控訴人に対し、「國場組が竹富リゾートの開発に資金を投資した結果、運転資金不足となったので、本件一土地、四土地及び本件建物を担保提供してもらいたい。」旨の依頼書〈証拠省略〉が提出され、被控訴人の取締役会において、その承認決議がされたものであった。

また、昭和六二年七月には、被控訴人の取締役会において、Dが行っていた名護ゴルフ場用地購入資金として、沖縄相互銀行から一五億円を借り入れることについての承認決議(持ち回り決議)がされたが、実際に同銀行から借入れはできず、その後、Dは、改めて被控訴人の取締役会の決議を経ないまま、被控訴人が借り主となって、琉球企画において使用するゴルフ場用地取得資金を沖縄総合リース株式会社から借り入れ、昭和六三年四月三〇日、本件土地建物に同社を権利者として、二億二五〇〇万円を極度額とする根抵当権と二億六三六七万五〇〇〇円を被担保債権額とする抵当権を設定した。

他方、本件二土地及び三土地は、前述のとおり、昭和六三年三月までは國場組が所有していたものであり、國場組自らのための根抵当権が付けられたが、そのほか、被控訴人を債務者とする根抵当権も相当数設定されていた。また、國場組は、被控訴人が同月に明治生命保険相互会社から一〇億円の融資を受ける際には、被控訴人に対し、明治生命保険相互会社に対する弁済資金に不足が生じた場合には随時これを貸与することを確約した。

(5) 本件借入れ当時は、いわゆるバブル経済の時期であり、沖縄県内においては、リゾートやゴルフ場の開発が各所で進められていた。

Dは、前述のとおり、事業に失敗し、國場組における地位が格下げとなっていたことなどから、昭和六二年ころから、個人的にゴルフ場等の開発事業を行うようになった。同人は、これに成功することが國場組の他の役員等を見返すことになり、また、國場組に新たな仕事を生み出すことにもなると考えていた。

そして、Dは、その一環として、大浦観光開発株式会社名義で仮称「大浦カントリークラブ」の開発事業を行っていたが、昭和六三年六月、その開発事業を推し進め、開発したゴルフ場を同社ごと売却するための主体となる会社として、前述のとおり、琉球企画を設立した。

(6) その後、琉球企画は、大浦カントリークラブの用地取得を進めていたが、その取得資金に不足が生じてきたことから、Dは、昭和六三年一〇月ないし一一月初めころ、M1に対し、琉球企画に一〇億円程度を融資してくれる金融機関を探すように指示した。

そこで、M1は、控訴人(当時は大和抵当証券株式会社。以下、平成元年七月一日までは同じ)の取締役で融資第二部長のOと業務開発部次長のPに対し、右融資依頼の話を持ち込んだ。

(7) O及びPは、國場組は沖縄における代表的な企業で、その代表取締役であるDは有数の資産家であると同時に那覇商工会議所の会頭をしている人物でもあることから、このような優良企業にぜひとも融資をしたいと考え、その後まもなく、沖縄を訪れ、國場組の社長室において、M1及びLの同席の下、Dに会った。

Oらは、Dに対し、ぜひ國場組に融資をさせてほしいと述べたが、Dは、Oらに対し、國場組にはメインバンクがあるので、同社が借り主となることはできないと述べるとともに、現在、自分が設立して代表取締役をしている琉球企画がゴルフ場の開発事業を行っていること、琉球企画は、國場組全体のベンチャー的要素を持った会社であり、國場組のために新たな仕事を作り出していく役割を担っていることなどを説明して、琉球企画のために融資をしてほしいと述べた。Dは、その担保として、ゴルフ場開発予定地の土地を提案したが、控訴人側において、開発許可を得ていない土地では担保価値が低いなどとしてこれを断るとともに、Dに対し、國場グループの中には担保的価値のある資産がいろいろあるのではないかと述べたりしたことから、Dは、被控訴人所有の本件土地建物を担保としたうえ被控訴人が借り主となることを決意し、Oらにその旨伝えた。Dは、右借入金をそのまま琉球企画に無担保で貸し付けるつもりであったが、國場組及び被控訴人の各代表取締役という自分の地位や取締役会のメンバー構成からして、被控訴人の他の取締役が自分の決定に異議を述べることはないであろうと考え、後で何かの機会に報告すれば足りるものと判断し、その後、本件第一の借入れに関し、被控訴人の取締役会を招集し、あるいはその承認を得るなどの手続をしなかった。

また、右借入れにあたっては、Dが連帯保証人となることとなった。

(8) Oらは、その後、Dから、本件土地建物の登記簿謄本、被控訴人の決算報告書(直前の三期分)、商業登記簿謄本等を受領した、

また、Oらは、本件土地建物を不動産鑑定士に鑑定してもらった結果、約七五億円の価値があり、先順位の担保権の額二四億五二〇〇万円を控除しても、十分に担保余力があることを知り、Dに対し、二〇億円の融資を提案したところ、Dは、これをもって、これまでの個人的負債の返済や今後の琉球企画等の運転資金等にあてようと考えて、右提案を承諾したことから、二〇億円の融資を受けることに決定した。

(9) Oらは、昭和六三年一一月一五日ころ、本件第一の貸付けにつき、融資案件審査書(兼稟議書)(乙第二八号証)を作成し、控訴人の内部決裁を受けた。右融資案件審査書(兼稟議書)には、本件第一の借入れの大半は國場グループにおいて土地買収資金として利用するので、実質的には國場組への貸付けと同然であり、金利返済等は親会社である國場組が一切行うことになり、返済能力については特に不安がないこと、被控訴人は、沖縄電力、琉球銀行と並ぶ地元御三家の一つである國場組の直系であり、社長や資本関係は國場組と共通で、実質的には一体であること、担保物件は那覇市の一等地にあり、担保余力は十分あり、地元で有数の資産を有するD社長(國場組社長)が個人保証することもあり、取引開始には問題がないことなどが記載された。

(10) O及びPは、同月二一日、沖縄を訪れ、國場組の社長室において、Dとの間で、本件第一の借入れ及び抵当権設定の各契約を締結した。Dは、その際、被控訴人の総務部長であるCに対し、被控訴人の社印や代表取締役印を國場組社長室に持ってくるように指示し、やがて同室を訪れた同人をO及びPに紹介した。右契約には、そのほか、LやM1らが同席した。

その際、本件第一の借入れ及び抵当権設定に関する契約書(金銭消費貸借および抵当権設定契約証書、甲第九号証、乙第一号証)の債務者兼抵当権設定者欄には、Cが被控訴人の社印及び代表者印を押捺し、連帯保証人欄には、Dがその住所、氏名を自書してその印を押捺した。

Oらは、その際、沖縄における最有力企業の代表取締役で、那覇商工会議所の会頭でもあるDのような人物であれば、当然、被控訴人の内部手続を経ているであろうし、わざわざ確認するのは失礼であると考え、同人に対し、本件第一の借入れ及び抵当権設定に関し、被控訴人の取締役会の決議がされているかどうかの確認をしなかった。また、控訴人には本件貸付けのような場合に、貸付先の取締役会議事録を徴求するという慣行ないし内部規約もなかった。

(11) 控訴人は、同日、第一勧業銀行那覇支店の被控訴人名義の普通預金口座に、三か月分の前払利息を控除した一九億六九九三万四二四七円を振り込んだ。

被控訴人は、同日、琉球企画との間で、控訴人から借り入れた二〇億円を、これと同一の利息、弁済期の約定でそのまま琉球企画に貸し付ける旨合意するとともに、同社から担保設定保証料として、同日に二〇〇〇万円の、その後毎年〇・五パーセントすなわち一〇〇〇万円の各支払いを受けることを合意し、同日、控訴人から振り込まれた一九億六九九三万四二四七円から担保設定保証料二〇〇〇万円を控除した一九億四九九三万四二四七円を、第一勧業銀行那覇支店の琉球企画名義の普通預金口座に振り替えて、これを交付した。右振替手続は、Dの指示を受けた琉球企画のLらと被控訴人の総務部長のCが行った。

その後まもなく、琉球企画は、二〇億円の借用証書と担保設定保証料の支払いを約する念書をそれぞれ作成し、これらを被控訴人の総務部長であるCに交付した。

Cは、琉球企画から受け取った担保設定保証料二〇〇〇万円につき、被控訴人の会計帳簿上、雑収入としてこれを計上した。

(12) 平成元年二月二一日、本件第一の貸付けの約定どおり、三か月分の前払利息二八七七万二六〇二円が被控訴人名で住友信託銀行東京営業部の控訴人名義の普通預金口座に振り込まれた。

O及びPは、同年四月ころ、國場組の社長室を訪れ、Dに対し、本件土地建物に付けられた先順位の担保権のうち、控訴人と同じノンバンクである沖縄総合リース株式会社の抵当権及び根抵当権を抹消してほしいと依頼した。Dは、琉球企画においてそのころ新たに泡瀬漁港跡地開発の事業を開始しようとしており、その事業資金が必要であったことから、沖縄総合リース株式会社への返済金約四億円を含めて九億円の追加融資を受けることとし、本件第一の借入れと同様に、被控訴人が借り主となって本件土地建物に担保を設定し、その借入金をそのまま琉球企画へ無担保で貸し付けることとした。Dは、本件第二の借入れについても、前同様の考えから、取締役会を招集するなどの手続をしなかった。

(13) Oらは、その後まもなく、本件第二の貸付けにつき、融資案件審査書(兼稟議書)(乙第二九号証)を作成し、控訴人の内部決裁を受けた。右融資案件審査書(兼稟議書)には、本件第二の借入れのうち約四億円は既借入金の返済にあてられ、五億円は國場グループへ流れて泡瀬の土地取得代金に充当され、実質的には國場組への貸付けと同然であり、金利返済等は親会社である國場組が一切行うことになり、返済能力については特に不安がないことなどのほか、國場組と被控訴人との関係や担保物件等につき、本件第一の貸付けに関する融資案件審査書(兼稟議書)と同様のことが記載された。

(14) O及びPは、同年五月一日、沖縄を訪れ、國場組の社長室において、Dとの間で、本件第二の借入れ及び抵当権設定の各契約を締結した。Dは、前と同様に、被控訴人の総務部長であるCに対し、被控訴人の社印や代表取締役印を國場組社長室に持ってくるように指示した。右契約にも、LやM1が同席した。

その際、本件第二の借入れ及び抵当権設定に関する契約書(金銭消費貸借および抵当権設定契約証書、甲第一〇号証、乙第三号証の一)の債務者兼抵当権設定者欄には、Cが被控訴人の社印及び代表者印を押捺し、連帯保証人欄には、Dがその住所、氏名を自書してその印を押捺した。

Oらは、前同様の理由により、Dに対し、本件第二の借入れ及び抵当権設定に関し、被控訴人の取締役会の決議がされているかどうかの確認をしなかった。

(15) 控訴人は、同日、第一勧業銀行那覇支店の被控訴人名義の普通預金口座に、三か月分の前払利息を控除した八億八六〇一万一七八一円を振り込んだ。

被控訴人は、同日、琉球企画との間で、控訴人からの借り入れた九億円を、これと同一の利息、弁済期の約定でそのまま琉球企画に貸し付ける旨合意するとともに、同社から担保設定保証料として、毎年〇・五パーセントに当たる四五〇万円の支払いを受けることを合意し、同日、控訴人から振り込まれた八億八六〇一万一七八一円をそのまま第一勧業銀行那覇支店の琉球企画名義の普通預金口座に振り替えて、これを交付した。右振替手続は、Dの指示を受けた琉球企画のLらと被控訴人の総務部長のCが行った。

その後まもなく、琉球企画は、九億円の借用証書と担保設定保証料の支払いを約する念書をそれぞれ作成し、これらを被控訴人の総務部長であるCに交付した。

(16) Dは、Cに対し、本件借入れを帳簿上きちんと記載するように指示した。右指示に基づき、被控訴人の第二四期(昭和六三年七月一日から平成元年六月三〇日まで)の営業報告書には、「会社の概況」の「主要な借入れ先」として、控訴人からの二九億円の借入れが記載され、また、貸借対照表には、固定負債の長期借入金として右金額を含んだ金額が、また、同固定資産の長期貸付金として琉球企画への二九億円の貸付金の金額が、それぞれ記載された。

被控訴人の監査役であり、國場組の監査役でもあったQは、平成元年九月ころ、右二九億円の借入れを知り、Dに対し、その使途等を尋ねたところ、同人は、ゴルフ場開発のために右借入れをしたが、開発したゴルフ場を王年以内に売却して借入金の返済をする予定であり、右借入れには自分が責任を持つので、被控訴人には迷惑をかけないなどと説明した。Q監査役は、その説明を聞き、Dは國場組の社長になって約一年しかたっていないこともあり、右借入れを問題にしてその足を引っ張ってはいけないと考え、被控訴人の第二四期営業報告書等についての監査報告書に、適正意見を書いた。

右営業報告書は、平成元年九月一九日開催の被控訴人の取締役会に報告され、貸借対照表、損益計算書及び当期未処分利益処分案は、質疑応答を経て、出席取締役全員の承認を得た。右取締役会には、Gの弟であるBやHも出席していた。

その後、右営業報告書等は、被控訴人の株主総会に報告され、株主の一人から、本件借入れについて質問が出されたが、Dが「私が責任を持つので、会社には迷惑をかけない。」と答えたため、特に反対もなく、貸借対照表、損益計算書及び当期未処分利益処分案がそのまま承認された。

(17) その後平成四年ころまでは、被控訴人の内部において、本件借入れの有効性等が問題になったことはなかったが、琉球企画が平成四年五月を最後として、利息の支払いをしなくなったため、被控訴人から控訴人への利息も同月を最後に支払われなくなった。そのため、控訴人は、那覇地方裁判所に対し、本件土地建物の競売申立てを行い、平成四年一二月三日、同裁判所で競売開始決定がされ、本件土地建物に差押登記がされた。

被控訴人は、これに対し、被控訴人から琉球企画への貸付けについての債権保全策を検討し、その過程で、本件借入れの無効を主張することが提案されたため、本件訴訟を提起するに至った。

(二)  なお、証人O及び同Pは、同人らはDらから本件借入れの使途は開いておらず、琉球企画においてゴルフ場開発のための資金等として使用することは知らなかったなどと証言するが、証人Lや同Dらは、Oらに対し、右のような使途を説明した旨供述しているうえ、控訴人の融資案件審査書(兼稟議書)には、本件貸付金が國場グループに流れ、土地買収資金として利用される旨記載されているのであって、これらの事情に照らすと、証人O及び同Pの右証言は採用できない。

また、証人Cは、同人が本件第一の借入れ及び抵当権設定の契約のために、國場組の社長室に呼ばれた際、同席者のいる前で、Dに対し、「取締役会の招集日はいつか。」と指摘すると、同人から「後で根回しをする。」と言われたと証言するが、Dはもちろんのこと、同席していた控訴人側のもの(Pら)も、被控訴人側のもの(Lら)も、いずれもそのような会話がなされたことを否定し、あるいはその記憶がないと証言していることなどに照らすと、証人Cの右証言は採用できない。

(三)  そこで、前記(一)の各認定事実に基づき、控訴人(O、P)が、本件借入れ及び抵当権設定につき、被控訴人の取締役会の決議がされていないことを知り、又は知ることができたといえるかどうかについて検討するに、右各認定事実によれば、控訴人が、右各行為につき被控訴人の取締役会の決議がされていないことを知らなかったということは明らかである。

次に、控訴人が、右各行為につき被控訴人の取締役会の決議がされていないことを知ることができたかどうかを判断するに、右各認定事実によれば、本件借入れ及び抵当権設定は、被控訴人自体に資金需要があったわけではなく、琉球企画においてその借入金を実質的に使用するものであって、控訴人は右事情を認識していたにもかかわらず、被控訴人の取締役会決議がされているかどうかを確認していないというのであるから、控訴人に細心の慎重さを欠いていたことは否定しがたい。

しかしながら、右各認定事実によれば、Dは、沖縄の最大手企業の一つである國場組の創業者の長男であり、同族的色彩の強い同社及びその関連会社である被控訴人の各発行済株式総数のうちの相当な割合の株式を保有し、それぞれの代表取締役をつとめるとともに、琉球企画を設立し、その代表取締役たる地位にあったものであって、そのような地位にあるDが、Oらに対し、琉球企画は、國場組全体のベンチャー的要素を持った会社であり、國場組のために新たな仕事を作り出していく役割を担っており、同社のゴルフ場開設等の事業のために融資をしてもらいたいと依頼し、その後、十分な担保を求められたため、國場組の関連会社のうち担保余力を有する不動産を有する被控訴人において、担保を提供し、融資を受けることにしたものである。そして、國場組は、いわゆるゼネコンであり、外部から見る限り、琉球企画がゴルフ場開発に成功すればその利益を受けうるような関係にある会社であること、國場組は相互に協力発展しあう多数の関連会社をもち、その一つである被控訴人も、これまで他事業を行っている関連会社のために、多数回にわたって担保提供をしており、このことは本件土地建物の登記簿謄本からも窺えること、その他前記認定にかかるDの地位、融資依頼及び契約の行われた場所(國場組の社長室)、契約時の同席者(被控訴人の総務部長)等からして、DがOらに行った右のような説明には、何ら不自然なところはなかったものと推認できる。さらに、Dは、契約の際、被控訴人の総務部長(会計、経理等の責任者)であるCをOらに紹介し、Cに契約書に被控訴人名下に押捺させたほか、その後も、右借入れを決算書類等に記載させ、取締役会に報告し、承認を得るなど、被控訴人の内部において、特に本件借入れ及び抵当権設定を秘匿しようとした形跡がないうえ、本件借入れ以前にも、琉球企画のゴルフ場開発事業のため、被控訴人の本件土地建物を担保に供することにつき、取締役会決議を経たことがあったことなどからすると、Dは、自分の決定につき、被控訴人の他の取締役から異議を述べられることはないものと判断して行動しており、前記の事情に照らすと、当時においては、仮に取締役会を開催していたとすれば、その承認決議がなされたであろうと思われる状況にあったと考えられるから、OらがDの言動に何らの疑問を持たなかったとしても、すこしも非難されるべき点はなかったというべきである。

確かに、Oらが、本件借入れ及び抵当権設定につき、被控訴人の取締役会の承認決議がされているか否かを確認すれば、右承認決議のないことは分かったであろう。

しかし、右のような状況の下で、前認定のように、Oらは、沖縄における最有力企業の代表取締役で、那覇商工会議所の会頭でもあるDのような人物であれば、当然、被控訴人の内部手続を経ているであろうし、わざわざ確認するのは失礼であると考え、同人に対し、本件借入れ及び抵当権設定に関し、被控訴人の取締役会の決議がされているかどうかの確認をしなかったのであるから、Oらが、右の確認をしなかったことをもって、同人らすなわち控訴人において過失があったということはできない。

3  以上によれば、被控訴人の再抗弁1(一)及び同2(一)はいずれも認められないというべきである。

三  再抗弁1(二)及び同2(二)について

1  再抗弁1(二)(1)及び同2(二)(1)(代表取締役の権限濫用)について

前記二2(一)の各認定事実によれば、本件借入れ及び抵当権設定は、当初からDが被控訴人代表者として控訴人から借り入れた金員を、そのまま琉球企画に無担保で貸し付け、同社においてゴルフ場開発の資金等として利用させる目的でされたものであるところ、琉球企画の当時の資本金は一〇〇〇万円で(甲第一二号証)、特段の資産も保有しておらず、全て他の借入金で運営している会社であり(甲第一八、一九号証)、その行っていたゴルフ場開発等の事業についてもこれが成功するという具体的な目処はなかったうえ(甲第一四、一五号証)、同社は、被控訴人ないし國場組とは、代表取締役が同一であるということ以外には何らの関係もない会社であって(前出)、ボーリング場の経営のみを行っている被控訴人が、控訴人との関係では営業の基盤たるボーリング場の存する本件土地建物を担保に提供して巨額の借入れをし、琉球企画に対しては無担保でこれを貸し付けるという一方的便宜を与えるべき必要性ないし相当性は全く窺えない。さらに、Dは、右借入金をもって、自己の個人的負債をも返済しようと考えており(前出)、実際にもその一部をもって自己の負債の返済にあてていることが認められる(甲第二九号証)。

これらの事情によれば、Dが琉球企画への無担保貸付けのためになした本件借入れ及び抵当権設定は、被控訴人のために行ったものとは到底いえず、琉球企画及び自己の利益のため、被控訴人の代表取締役の権限を濫用して行ったものというべきである。

2  再抗弁1(二)(3)及び同2(二)(3)(控訴人の悪意又は過失)について

株式会社の代表取締役が自己等の利益のため、会社の代表取締役名義でした法律行為は、相手方が右代表取締役の真意を知り、又は知りうべきものであったときは、民法九三条ただし書の類推により、その効力を生じないというべきであるが、前記二2(一)の各認定事実及び同(三)の事情(國場組、被控訴人及び琉球企画との関係やDの地位、Dの説明の内容及び当時の客観的状況からしてその説明に不自然さはないこと、Dが被控訴人に本件借入れ等を秘匿しようとせず、取締役会において承認決議を得ることも可能であったと考えられること等)からすると、本件においては、控訴人は、Dの代表取締役の権限濫用を知り、又はこれを知りうべきであったということはできず、ほかに右事実を認めるに足りる証拠はない。

3  したがって、再抗弁1(二)及び同2(二)はいずれも認められないというべきである。

第四当裁判所の結論

以上のとおりであるから、その余の主張事実について判断するまでもなく、被控訴人の本件請求は理由がなく、これを棄却すべきであるところ、これと異なる原判決は失当であるからこれを取り消し、被控訴人の本件請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法六一条、六七条二項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岩谷憲一 裁判官 角隆博 吉村典晃)

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